銀白色金属光沢を有し、展性・延性に富み、錆を生せず、大気中で強く熱すれば酸化するが、常温では光沢を失わない。
広辞苑 第二版より抜粋

このように書かれ、業界としても「錫は錆びない」と言っております。

しかし、イオン化傾向の表をご覧になればわかるように化学関連の資料には錫は錆びる(酸化する)と記されております。

ion

ちなみに銀の黒ずみは「硫化」ですので種類が異なります



そのことに関しまして一度はっきりさせておかないとあらぬ誤解を与えてしまいかねないと思いましたので、1職人の見解としてではありますがここに書かせていただきます。


まず、酸化「する」のか「しない」のかという問題ですが、結論から申しますと「します」。

ではなぜ「錆びない」といっているか、そういわれているのかという問題ですが、1つには酸化の速度が遅いということです。

あえて酸化をさせるようなことをしない限りはその反応はゆっくりとしたもので、見て分かるような変化を起こすことはありません。

そして高級品として扱われてきた錫は持っていること、使っていることが自慢できるものであり自分が裕福であるという証でもありました。

ですので人に自慢するために使う、もしくは自分でめでるためになでる。
そういった動作で自然と表面が磨かれ錆がつかない状態に保たれていました。
(電車のレールが光っているのと同じです)

さらに通常の状態で錫にできる錆(SnO2)は透明だということです。

鉄の赤錆や銅の緑青のようにわかりやすい色ならば錆の存在に気づくでしょうが、それが透明となると錆びているのかどうかの判断は非常に難しくなります。

sabi


錆の厚くなってくると「光沢がくもってきた」と感じることもあるかと思うのですが、長年にわたるちょっとした変化と普段から使われることで生じる細かな擦り傷、そして使われることでつく手の汗や油などに隠れて錆を錆と認識することが困難になります。

  1. 非常に錆びにくい
  2. それとはなしに普段から手入れをしている
  3. 錆が透明

この3つの要因から錫は錆びない金属だという認識が生まれ、業界としてもあれこれと難しい説明をして扱いが面倒だという印象をあたえるよりも

「ときどき柔らかい布で表面を拭いてください(上の2のこと)」

といって手入れの方法を伝え、「錆びない」ことについてはそちらのほうが都合がよく、また極端に間違ってもいないのであえて訂正しないで今日まで来てしまった、というのが実情ではないかと思われます。


結論:
錆びにくいですが長期間放置すると錆びることもあります。


注釈1:
酸化錫も金属の錫と同様に常識的な使い方をしている限りにおいて健康に影響はありません。

ですが50年100年と長期間放置された骨董品などは多量の酸化物がついている可能性があります。

そういったものを使われる場合には十分にみがき、すすいでから使われることをお勧めいたします。


注釈2:
骨董品などで黒くなっている錫の品をご覧になった方もおられるとは思いますが、あの変色は主に

  • 手垢など外部の汚れ(とそれを中に含んだ酸化錫)
  • 合金の錫以外の金属の変色(点描画のようなものです)

による変色になります。

とくに古いものは錫の比率が低いものが多いですので色の変化が強くなります。



※ 2016/9/1追記
辞書などでいう「錫が錆びない」というのは、「(乾燥した空気中では)錫は錆びない」ということのようです。

湿気の多い日本では乾燥した状態を保ち続ける、というのは難しいと思われますが、「水垢を防ぐ」という点からもなるべく水滴などをつけない、残さないような使い方をしていただければ幸いでございます。




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