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金属の中でも古くから使われてきた錫ですが、それゆえに金属そのものとしてだけでなく、多くの状態で使われてまいりました。

今回は陶器の釉薬の一つ「錫釉」の話をさせていただきます。


この錫釉、生まれは紀元前6世紀のバビロニアなのですが、その製法は後の世に伝わることなく失われてしまいます。

これが再発見されるのは9世紀ごろのイランでこれを使った陶器が13世紀中ごろからヨーロッパへと輸出、その後現地生産されるようになりました。

ヨーロッパへの輸出ですがその場所へ「主にどこから輸出されたか」がその土地での呼び方になっておりまして、
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スペイン・イタリアではマヨルカ島から輸出されたのでマヨリカ
フランス・ドイツではイタリアのファエンツァから輸出されたのでファイアンス
オランダでは生産を自国のデルフトの町に独占させたのでデルフト
などの名で呼ばれております。
 

この長期・広範囲にわたって使われている錫釉ですが、その特徴は
「陶器の色を模様付けに適した白色にできる」ということでありました。

陶器を彩色するときは「土の色」と「釉薬の色」を考慮しなければなりませんが下地である土の色が暗いとどうしても釉薬をかけた完成品の色も暗くなってしまいます。

しかし錫釉で下地を作っておけば明るい色は鮮やかに、暗い色は明暗の際立った模様を付けることができるようになります。

このようなことから錫釉は陶器の下地として、ヨーロッパを中心に永く愛用されております。



一方の日本では錫釉はあまり使われておりません。

これは日本においては錫の産出が少なく貴重品であったことが影響しているのであろうと思われます。

時代、場所にもよりますが白色を出す際には籾灰・藁灰を使った珪酸釉がつかわれたようで、このようなところにも各地域の歴史が垣間見えてなかなかに楽しいものでございます。

東西の陶器を見るさいには、その下地の白色を見比べてみるとまた何か発見があるかもしれません。


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