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前々回前回に引き続き今回は「錫の販売」について書かれた書物の紹介となります。

  • 京雀
  • 難波雀
  • 日本国花万葉記
  • 改正増補難波丸網目
  • 江戸買物獨案内
  • 買物獨案内 大阪商工銘家集
  • 増補 浪花買物独案内
  • 大阪府工業概覧





京雀

寛文5年(1665年) 浅井了意

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国立国会図書館デジタルコレクション 京雀 7巻. [6]
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2554847?tocOpened=1
6冊目 15/23ページに「五条橋通り」の絵にすず屋が描かれる


江戸時代前期の僧で仮名草子作家の浅井了意が寛文5年(1665年)に刊行した京都の観光案内書「京雀」の五条橋通りの項目に店を構える錫屋の図を見ることができます。

「ちょっと古めの錫の資料 絵画・詩文」で記載しました屏風の描かれた年が憶測なため、これが錫の販売に関する最初の図とされているようでして、山を渡りながらうつわを作っていた木工のロクロ師とは異なり早くから街中で製造していたことがうかがえる図となります。

ただこの図に関する文章なのですが、五條橋通りということで13 ~ 15ページの間に書かれていると思われるのですが字の崩しが強く読むことが出来ないので解説はいたしかねます。



難波雀

延宝7年(1679年)刊 著者 水雲子 編[他]  出版者 古本屋清左衛門[ほか1名]

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国立国会図書館デジタルコレクション 難波雀
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541844
78/90ページ 96諸商人法職人売物□付の「す」の項目に「錫引 堺すぢ」


この「難波雀」での記述が大坂で錫を製造していました最初の資料となります。

1655年に九州薩摩で錫山鉱床が発見され、採掘された錫は大阪へと運ばれて商取引されていたそうですので、おそらくはその錫をつかいより貿易に適した大坂で作るようになったのが大阪での錫器製造の始まりであろうかと思われます。



日本国花万葉記

元禄10年(1697年)菊本賀保 著

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早稲田大学図書館 国花万葉記. 巻第1-14 / 菊本賀保 [著]
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ru03/ru03_01351/index.html
5・摂津難波 111/118ページ 「す」の項に「堺すぢ 心斎橋すぢ」


1679年の難波雀から18年がたち、心斎橋筋にも錫引が店を出していることを知ることができます。



改正増補難波丸網目

延享5年(1748年)刊 志田垣 与助 著

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早稲田大学図書館 難波丸網目. [1-7] / 志田垣与助 撰
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ru04/ru04_03769/index.html
4巻 38/49ページ 「す」の項に「錫引 さかいすぢ」


また原本の確認はできておりませんが「大阪の伝統工芸-茶湯釜と大阪浪華錫器- 36ページ」によりますと、安永6年(1777年)版には堺筋伏見町、心才橋筋、天神橋筋で錫引が営業していたそうです。



江戸買物獨案内

文政7年(1824年)  中川芳山堂:編

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神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ【住田文庫】 江戸買物獨案内 上・下巻・飲食之部
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/sumita/00018117/
下巻 内容画像282ページ

錫細工所が京橋西紺屋町、上野黒門前にあることが記されています。



買物獨案内 大阪商工銘家集

弘化3年(1846年)刊

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神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ【住田文庫】 買物獨案内 : 大阪商工銘家集
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/sumita/00019815/
内容画像173/176ページ

萬錫細工所が南久宝寺心斎橋南、心斎橋筋本町にあることが記されています。



増補 浪花買物独案内

慶応3年(1867年)刊 松岡栄作

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大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館 商人買物独案内
http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM&C_CODE=0228-006507&IMG_SIZE=&IMG_NO=61
61 ~ 62/65ページ

御堂筋に「御錫鋳物細工所」「萬錫細工所」、心斎橋筋に「萬錫道具」「錫物仕入所」があることが記されています。



大阪府工業概覧

明治37年3月(1904年) 府立大阪商品陳列所

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国立国会図書館デジタルコレクション 大阪府工業概覧
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/802676
207 ~ 208/219ページ 錫器製造業の項に「中村半兵衛」「津田栄助」「武本久左衛門」の3名を記す


明治35年に大阪の工業系組織、会社を調査した資料の改訂版として37年に刊行されたもので、それぞれの設立年月や製造額などの項目が調査、記載されております。

注目するべき点として、中村半兵衛(のちの錫半)の沿革に
明治5年ごろにうるしを塗りこんだ「イブシ」を開発した
ことが記載されており、工芸品の錫でみられるうるしによる着色はこの時期に考案、実用されたものであることがうかがえます。

なお正徳年間(1711~1716)、心斎橋通りに大阪で最初の錫屋として開業したむねが書かれておりますが、これにかんしては延宝7年(1679)刊行の「難波雀」、および元禄10年(1697)刊行の「日本国花万葉記」に錫屋が開業していたことが記載されておりますので、本人なのか先祖なのかは不明ですが盛った話のようです。


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